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まいわい新譜放談

しらいしかずやとマノリツコによる音楽ユニット・まいわいが、4曲入りEP『みずがうえから』をリリース。2人きりの密やかな音風景を吹き込んだ1stアルバム『ことほきす』から一年。7名のゲストミュージシャンを迎えた本作では、大編成で新たな世界を描き出す。
(聞き手・市川水緒)

まいわい

日本語の音の響きを大切にしながら、やさしくこわす。そしてまた作る。まるで積み木を積み上げていくような楽しみと喜びに満ち溢れた、音作りと歌声。心の中に閉じ込めておきたい美しい音風景を作り出す、しらいしかずやとマノリツコの音楽ユニット。2014年年末に結成。2015年9月ファーストアルバム「ことほきす」発表。世田谷美術館・旧前田家本邸・象の鼻テラス・豊島区「としまアート夏まつり」など様々な場所やイベントにて演奏を行う。

「みずがうえから」

ーー 1曲ずつ紹介をお願いします。まずは「みずがうえから」から。

しらいし(以下 し)⚫︎作詞、作曲、アレンジすべてが、奇跡的なバランスで成立している曲。自分史上で一番好きな曲です。コード進行は情感を生むものだと思っているのですが、それを一切排したかった。結果、コード進行より転調の方が多い曲になりました。複数の旋律の集合体で、コードネームを付けづらい変な曲です。

 最初に曲ができて、歌詞をどうしようか考えていた頃、旅行で香川から高知に向かう土讃線という電車で大歩危渓谷※1という秘境みたいな場所を通ったんです。その時に見た、まさに「水が上から落ちてくる」ような風景を模写するイメージで歌詞を書きました。

マノ(以下 マ)⚫︎録音する時はどんな流れで、どんな泡が立っていたかとか、みんなと景色を共有しつつ作りました。最終的にそれぞれ想像力を働かせて、一つひとつの楽器がいろんな水の風景の一部になって、どこの国とも限定されない水流ができたなと思っています

し⚫︎実際に水が流れる様子を見て書いた歌詞からアレンジを発展させたので、曲が進行するにつれて下の調に転調したり、一番と二番では河幅のように各セクションの長さが長くなる構成など、曲にもかなり水のイメージが影響されていると思います。

 全体的なテーマは「水の形態模写を通した物理学」のつもりです。水墨画とか風景画みたいに、自然現象をただ純粋に描きたいと思いました。

「かごめかごめ」   

ーーこれは初のMV曲ですね。

し⚫︎漫画家のネルノダイスキさん※2にアニメーション作品を作ってもらいました。前々から、もしまいわいがMVを作るならアニメーションがいいと思っていて。ネルノさんの個展で見たドローイング集が素晴らしかったので、是非にとお願いしました。

マ⚫︎MVを作っていただくのが決まってから録音したので、脳内では完全にネルノさんの作画の中に自分が入ったイメージで歌いました。上も下も分からない、重力もありそうでなさそう、聴こえる音も幻聴かも……というような感覚です。自分が何者なのか限定せず、距離感を持たせたり引き寄せたりしながら歌っています。

し⚫︎「かごめかごめ」の誰もが知っている歌詞を、一部「かごのなかのしょうねんは」「うしろのしょうねんだあれ」と言い換えて歌っています。実は、最初は言い間違えからはじまったのですが、そこからいろいろふくらませました。この「しょうねん」という言葉がネルノさんの世界につながったと思っています。

 アレンジ自体は、ギターのリフから発展させました。「堂々巡り感」をテーマに、繰り返すけど繰り返さないイメージ。もっとタイトな演奏のテイクもあったけど、このゴチャっとした感じがよくてこのテイクになりました。

「かけら」         

し⚫︎2人でリハーサルしている時に思いついて録音しておいたコードを、後から改めて曲にしたもの。この曲だけマルチトラックレコーディングで、以前ライブ特典として配った楽曲にオーバーダブしています。クラリネットの戸井さん※3に入ってもらい、戸井さんのアドリブと僕の書き譜の組み合わせで作りました。溜めてあった複数の曲から旋律を拝借しはめ込んだり、細かくエレキギターも重ねています。

マ⚫︎2人だけだと冷たい理系ファンタジーになりそうなところ(それも悪くないのですが)を、クラリネットが入ったことで、遠い記憶に包まれたようなリアルな温度が入って、やさしくかみ締めるような味わいになったと思います。

し⚫︎今までのまいわいっぽい曲だけど、歌詞はぽくない。今振り返ると、歌詞はまいわいの自己紹介ソングになってるかもしれません。(あるはずのないことばのいみをさがして)机に向かったりせず、けっこうエモーショナルに曲に言葉をのせて作詞しました。

「いちねん」           

し⚫︎はじめにイントロの旋律を書いて発展させた曲で、不協和音も音色としてとらえた、まいわいなりのオルタナティブフォーク。Parallel Shells※4との四重奏を念頭に書いた曲で、木管フルートの気持ち良さを生かしました。

マ⚫︎今回の4曲の中では、一番リラックスしてナチュラルな気持ちで歌ってるかも。録音の時、後ろからフィドルとフルートが聞こえてくる配置だったのですが、その音が体を浮かび上がらせ、心地よく運んでいってくれたイメージです。

ーーシンメトリーに構成された歌詞ですね。

し⚫︎最初に「はるばる」という言葉が出てきて、もしかしたら続けて「なつ」「あき」「ふゆ」で始まる歌詞にできるかもと思いついて。そこからパズルを組み合わせるように作りました。今の歌詞は、りっちゃんが一部校正を入れてくれて、よりシンメトリーにまとまりました。

いろんな人の視点を入れたかった    

ーー 今回はなぜ大編成でやることに?

し⚫︎3曲入りくらいのEPを、自分の好きなミュージシャンを集めて作ってみたいと思っていて。いろんな人の視点を入れたくて、今まで自分が演奏を見たことがある、信頼できる人たちで編成しました。

マ⚫︎いやぁとても贅沢で楽しかったです。本当に頼もしい人たちに参加してもらったので、早くライブがやりたいです。

し⚫︎最初に念頭にあったのは、パーカッションの武留くん※5とスティールパンのmangnengさん※6、フィドルの柴山真人さん※7と、フルートの柴山祥子さん※8。アレンジのバランスも考えて、影山朋子ちゃん※9のマリンバと、戸井安代さんのクラリネットにも入ってもらうことに。さらに、MVにちょっとおもしろい音とか次元の違う音が入っていると世界観が広がりそうという話になって、安永さん※10 に声をかけました。安永さんは手作りシンセを弾いたり、マイクを床に引きずったり、いろいろな演奏をしてくれたよね。

マ⚫︎録音の時、どこかの国の怪しい露天商みたいに(笑)、いろんな道具が入ったキャリーバッグを持ってきてくれて。「これどうやって使うんだ?」ってものを、「こんなのもあるよ」って次々出しては魔法のように操ってたから、私はすごい魔法使いだと思っています。

し⚫︎録音はまったくアレンジを決めないで臨んだんだよね。フィドルとフルートだけはコンビネーションがあったからラフを書いたけど、それ以外はとりあえずやってみましょうという感じで。大人数だからスケジュール的にもある程度スピード感も必要だったので、そこは大変でした。

日本を静かにしたい          

    

       

ーー今回のEPの聴きどころは?

し⚫︎編成のおもしろさというか、いびつなところかな。たぶんこの編成は、あまりみなさん聴いたことがないんじゃないでしょうか。普段僕らがやっているような曲も、いろんな人の力を借りて増幅させて、もっと強くて興味深いものに仕上がりました。自分の想像を超えた音になったと思っています。

マ⚫︎予想以上に一曲一曲違った色になったので、それを楽しんでいただければ嬉しいです。普段のまいわいとはまた違った景色を見てもらえると思います。

し⚫︎僕個人の今後の展望としては、日本を静かにできればと思っています。まいわいが世にでることで、それに多少なりとも反応した音楽が出てきたりして、日本の音楽の行き先が静かな方に向かって欲しい。そういうサウンドスケープ的な考えを持っています。

インタビューの完全版は近日公開!

意外な結成秘話や独自の歌詞の世界など、まいわいをもっと深く掘り下げます。

まいわい「みずがうえから」

レーベル:mmnr( みみなり) 発売日:2016/10/31

品番:mmnr-005 仕様:変形紙ジャケット

JAN: 4582237835472 税抜:1111円

「みずがうえから」特設サイト

http://maiwai.wixsite.com/mizu

▼注釈

※1 大歩危渓谷

高知県と徳島県を横切る吉野川中域の渓谷。8kmに渡ってそそり立つ岩壁と美しい清流が続き、国の名勝地にも指定されている。一説には「大股で歩くと危険」が地名の由来。こなきじじい発祥の地。

※2 ネルノダイスキ

漫画、立体、絵画などを制作。2015年、第19回文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞受賞。
 

※3 戸井安代

クラリネット奏者としてさまざまなバンドのサポートに参加。影絵作家でもあり、音楽+影絵のユニット「畔」でも活躍中。
 

※4 Parallel Shells

フィドルの柴山真人、木管フルートの柴山祥子によるミニマルフォークデュオ。
 

※5 内田武留

ショピンのタイコ等担当。あだち麗三郎クワルテッット、ヒネモス、BURGER NUDSなどでも活躍。
 

※6 mangneng

スティールパン奏者。ソロやmangneng planet band、てぬぐいのサポートなどでも活躍。
 

※7 柴山真人

フィドル奏者。Parallel Shellsのほか、ヒネモスでも活躍。
 

※8 柴山祥子

木管フルート奏者。Parallel Shells。柴山真人の義理の姉。
 

※9 影山朋子

マリンバ、ヴィブラフォン奏者。森は生きている(ex)、ゑでぃまぁこんのサポートのほか、シンガーソングライターとしてソロでも作品を発表。
 

※10 安永哲郎

エレクトロ・アコースティックユニットminamoの電子音奏者。「安永哲郎事務室」として音楽活動以外にコンサートや展覧会の企画、編集、執筆、講演などの活動も行う。

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